ウェディングドレスと6月の雨
「わあ……」


 鏡に映る自分に思わず息をもらした。感嘆の息。そして次の瞬間、鏡の中の私は頬を緩めた。可愛い、綺麗……。花嫁さんみたいな、そう、ガーデンパーティや結婚式の2次会の席ならちょうどいいデザイン。私はファスナーを緩めて早速袖を通した。再び鏡を覗き込む。サイズもピッタリだ。

 チュールに細かな模様が編み込まれてることに気づいて裾を摘んで持ち上げて眺める。小さな花の模様。指を離すとチュールは空気を含んで浮き、そして踊るようにフワリと落ちた。デコルテの透け加減もいやらしくなくてちょうどいい。かしこまらず、動きやすくて、それでいて清楚で。こんなドレスを着てウェディングパーティを開いてみたい。青空の下、茂る芝生、白いテーブル、シャンパングラス。可愛い草花をあしらったブーケを手にして……。

 そんな風景を思い描いたところで私ははっとした。穂積さんは何故、こんな素敵なワンピースを持っているのか、それを何故私に貸してくれるのか疑問に思った。穂積さんに結婚秒読みの彼女がいて、そのためのものなら彼女が持っていても良いはずだし、そもそも赤の他人の私に貸すこともしないだろう。

 ほんの少し、罪悪感が脳裏を掠める。私が着てもいいのかって。といっても、もう、着てしまったけれど……。

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