ウェディングドレスと6月の雨
「これでうわさも消えちゃうとつまらないけど、穂積さんも終わりってことよねー」
「どうしてですか」
「神辺さんのおかげで穂積さんは甘い汁を吸ってた。けど、神辺さんにとって用無しになれば穂積さんも人事面では優遇を受けられなくなる」
「……」
「こないだのコンペだって本社人事部からの推薦で担当になったんでしょ。だもの、もう落ち目、落ち目」


 面白おかしく話す先輩の顔に苛立ちを覚えた。違う……。コンペだって本社からの推薦もあったとは思う。でもそれは穂積さんの積み重ねてきた実績からであって、決して賄賂的なものではない。あんなに真っ黒な手帳、私は見たことがない。土日は休みなのに土曜日にもメンテナンスを入れてる穂積さん。コンペの勝利は穂積さんの功績なのに。


「……そうでしょうか」
「何、成瀬さん。おっかない顔して」
「穂積さんの努力もあると思いますよ?」
「穂積さんの肩を持つんだ。ふうん」


 先輩は顎を突き出して私を見下ろすようにした。


「穂積さんに惚れちゃったわけ」
「そういうことじゃありません」
「じゃあ、どういうこと?」
「プレゼンだって上手でしたし、先方も穂積さんを前からお気に入りだったみたいですし」
「はいはい。分かりました、分かりました。穂積さんのお手柄だって言いたいわけね。そういうことにしといてあげる」

< 105 / 246 >

この作品をシェア

pagetop