ウェディングドレスと6月の雨
 先輩の憶測を事実で否定しようとすると、先輩はあからさまにムッとした。


「先輩に楯突くわけ。来月、コーヒー当番は成瀬さんだったわよね。紙コップとコーヒー、ちゃんと用意して成瀬さんが配ってね。宜しくぅ~っ!」


 先輩は口を尖らせて、出勤してきた別の社員にコーヒーを配りに行った。面倒くさい先輩。

 スマホの着信音が鳴る。メールだ。先輩が向こうの課長の席に移動してるのを確認してから鞄からスマホを取り出した。


“日曜日、迎えにいく。10時でいいか?”


 穂積さんだった。遊園地に行くのには遅い時間。夏休みだし、かなり混雑している筈。もっと早い時間に到着しないと駐車場も満車で入れない可能性もあるし、到着が遅れれば乗れるアトラクションの数も必然的に少なくなる。


“10時じゃ遅いと思いますよ”

“いや。いろいろと都合で”


 忙しいのかな、と思った。前の日も仕事とか接待とか。私は、分かりました、待ってます、とメールを返した。日曜日、何を着ていこう。いつもワンピースやスカートばかりだけど、遊園地は歩くし、アトラクションに乗るにもパンツの方が楽だし。先輩に面倒くさいことを押し付けられてため息をついてたけど、少し私は気持ちが明るくなった。

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