ウェディングドレスと6月の雨
 そして更にピンクの麦わら帽子、ピンクのサンダル、手にはピンクのバッグ。彼女がピンクを愛してるのは一目瞭然だった。その子は、乗りたい、ピンクの乗りたい!、と父親と思われる男性に泣きついていた。どうやらスカイサイクル、ピンクは1台しかない当たり車体みたいで。咄嗟に声が出た。


「どうぞ」


 泣いていた女の子は一旦泣くのを止めた。


「いいんですか?」
「ええ。穂積さん、良いですよね」
「ああ」
「さあ、どうぞ」


 通路の端によけて後ろにいた親子を前に通す。父親は、ほらお兄さんとお姉さんにお礼を言いなさい、と女の子に言うと彼女は、ありがとう、と言ってにっこり笑った。私がどういたしましてと声を掛けて手を振ると彼女も手を振って応えてくれた。父親と2人でピンクのスカイサイクルに乗り、漕いで離れていく。私と穂積さんは次の赤いスカイサイクルに乗り込んだ。


「今の女の子、かわいかったですね」
「ああ」


 穂積さんはぼそりと返事をする。泣いてる女の子の声がうるさかったんだろうか、もしかして子ども嫌いとか。そんなことを考えて漕ぐうちに、穂積さんは神辺さんの赤ちゃんのことを考えてるのかと私は推測した。赤ちゃんのことを思い出すから遊園地にはイヤイヤ来た、とか。それか、ひょっとして子ども嫌いだから、遊園地に来たくなくて、わざと遅れて来たのかって……。

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