ウェディングドレスと6月の雨
「じゃあ、あれにしましょう!」
「……ああ」


 正面奥にあるジェットコースター、私は早足で道を歩く。レールは波形に乱高下して、最後にクルンクルンと2回転する。列に並び、順番を待つ。


「あれって、前の方がいいのか? 後ろの方がいいのか?」
「一番前も視覚的に迫力ありますけど、後ろの座席は揺れるらしいので怖さなら後ろの方がスリルはありますよ」
「……そうか」


 穂積さんは時折、上を見上げては溜め息をつく。ジェットコースターが面倒くさいんだろうか。やはり女の子達はキャーキャーと甲高い声を上げている。

 ジェットコースターが到着する度に階段は進み、とうとう私たちの番になった。しかも一番前。先に穂積さんが乗り込む。隣の座席に私も乗り込んだ。先頭なんて乗った記憶も無い、珍しいこと。ワクワクする。

 発車のベルが鳴り響いた。


「いよいよですね」
「ああ」


 穂積さんは前に付いている手すりを両手で握った。カチャンカチャン、とチェーンの回る音と共にジェットコースターは高度を上げていく。


「うわあ、高い。さっき乗った魔法の絨毯よりずっと高いですね。スカイサイクルもあんなにちっちゃい! 可愛い!」


 私はテンションが上がって喋っていた。でも穂積さんは黙って手すりを握って。


「穂積さ……ひゃあ!」



 ジェットコースターはいつの間にか頂点を過ぎて降下を始めた。

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