ウェディングドレスと6月の雨
「……ごめんなさい、可愛いなんて言って」
「いや」
青白い顔をした穂積さんを近くのフードコートに連れて行く。隅の席に座らせて、私はウォーターサーバーを見つけて紙コップにお冷やを汲んできた。穂積さんにそれを差し出すと、一気に飲み干す。そして髪をかきあげて手を膝の上に乗せた。
「昔っからダメなんだ。乗り物全般」
「でも車はいつも乗ってますよね」
「自分で運転するなら何時間でも平気なんだけどな」
「だから今日、遅刻したんですね」
今日、わざと遅刻した。わざと遅い時間にここに来たのは、アトラクションに乗る回数を極力減らしたかったのかもしれない。
「新しいアトラクションも増えて得意先で話題になってて。一度は来なくちゃいけないと思ってたところに、アンタが食いついてきたから」
「でも穂積さんが苦手だって知ってたら断りました」
私は自分の分のお冷やを穂積さんに差し出した。穂積さんはそれも一気に飲み干す。
「……連れてきてやりたかったんだよ」
「え?」
「あんまり嬉しそうな顔をするから」
穂積さんは俯いたままだった。私はその言葉にドキドキして席を立つ。もう一度ウォーターサーバーへお代わりのお冷やを取りに行った。私が嬉しそうな顔をしたから……。その言葉を都合上良く解釈してはいけない。それは友達としてだからだ。期待しちゃダメだ、って。