ウェディングドレスと6月の雨
 ボートに乗る。穂積さんは真ん中に乗り、器用にオールを操作した。私は後方の席。ボートはぐんぐんと勢いに乗り、白鳥のボートや他の手漕ぎのボートをスイスイと追い越していく。


「スゴい。穂積さんトップです!」
「別に競ってる訳じゃないだろ」
「いいんです。湖の端まで行ってください」
「ああ」


 大きな手でオールを持ち、両肩を前後に動かして。流暢に漕ぐ穂積さんの姿を見ていた。日も傾いてきた。太陽は少し黄みがかって、空は夕方の色に近づいてきた。西日が眩しい。


「アンタ、ボートには乗ったことあるのか? さっき白鳥のじゃ乗った気がしないって言ってたけど」
「はい。子どもの頃は父親と、高校の頃、池のある公園が近くにあって、友達とよく乗りました」
「その友達って……」


 穂積さんは片方のオールを下ろしたままにして、左手だけを漕いだ。ボートは方向転換をして、正面にいる穂積さんの背後には遊園地の景色が広がる。

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