ウェディングドレスと6月の雨
「ほら、こう」
「はい。あ……」
右隣にいた穂積さんは左腕を私の背中に回した。そして両手で握っていた私の手の甲の上から穂積さんの手が重なって。
「水面に出たら、水平に後方へ。こう」
「は……はい」
「漕いで。上げて水平。分かったか?」
「はい」
もうそれどころじゃない。真横には穂積さん、背中には穂積さんの腕、手の甲には穂積さんの大きな手のひら。そして……耳には穂積さんの息が掛かる。至近距離。
「おい、聞いてるのか?」
「聞いてます。だって。あの……」
穂積さんの顔を見ようとして斜め上に顔を向ける。その目の前には穂積さんの……顔。
「……」
「……」
見つめ合う。ほんの一瞬だったかもしれない。でもものすごく長く感じた。
先に目を逸らしたのは穂積さんだった。
「……聞いてるなら、いい」
「はい」
穂積さんは再びオールを漕ぎ始めた。私もそれに合わせて手を動かす。ボートはゆっくりと船着き場で向かう。岸から見ていた男の子たちがヒューヒューと私たちをまくし立てた。穂積さんの頬が少し赤く見えて、でもそれは西日のせいかもしれないと思った。