ウェディングドレスと6月の雨
 ビルを出ると横から涼しい風が髪をふわりと浮かせた。その髪が頬をくすぐる。まとわりつく髪を指で耳に掛けた。

 レストランまでは徒歩で行くのか、高田さんは駐車場には向かわず、歩道を歩き始めた。ゆっくりと歩いて私を隣に並ばせる。そして私に質問をする。入社何年目と出身校とか出身地とか。趣味は?、住まいは?、家族は?、と私のことを聞きまくる。


「お互い、名前と顔は知ってるけど、プライベートは何も知らないよね。そういうのは知っておいた方がやりやすいと思うんだ。仕事の潤滑油だよ」


 レストランは穂積さんと来たときよりは空いていた。すぐに席に案内されて、高田さんはワインリストを開くとハーフボトルのスパークリングワインの銘柄を読み上げる。女の子だから甘めがいいよね、とその中からアスティを選んだ。電車通勤で車の運転はしないけれど、私はアルコールを飲みたい気分でも無かった。スタッフがクロスを掛けて栓を開けると甲高い音が室内に響く。それを注ぐと細かい泡が立ち上る。


「何に乾杯しようか」
「コンペの成功ですよね」
「成瀬さんは真面目だな。じゃあコンペの成功を祈って乾杯」


 グラスの縁を合わせる。白い気泡はユラユラとゆれながらグラスの中を泳ぐ。

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