ウェディングドレスと6月の雨
振り返るといたのは高田さんだった。ホッとして私は息を吐いた。
「お疲れ様、成瀬さん」
「お疲れ様です。早いですね」
「ん、まあね」
高田さんはニコニコしながら、私の横に並んだ。何か手伝うことある?、と言って私が絞っていた雑巾を取り上げた。
「私、やりますから」
「遠慮しないで。成瀬さんを企画室秘書を指名した僕にも手伝う義務があるでしょ」
「でも」
「いいからいいから」
「でも広報室の方に」
いいのいいの、と高田さんは給湯室を出て行ってしまう。私も別の雑巾を濯いで高田さんのあとを追い掛けた。
会議室に入ると高田さんは鼻歌を歌いながら奥のテーブルを拭いていた。私は疑問に思った。同期のライバルの花舞台、もちろん仕事だし、コンペだって必ずしも勝てる訳ではないけれど、そのライバルを盛り上げるべく行われる会議を高田さんが素直に喜ぶのもおかしいって。率先して準備だなんて。
「先週、大丈夫だった?」
「あ、はい。ご心配お掛けしました」
「無事に帰れたならいいんだ。でも送って行きたかったよ。フラフラだったもん、成瀬さん」
「すみません……」
「でも、送り狼に変身したら困るでしょ?」
「ええ……まあ」
何、即答なの?、と高田さんは雑巾を掛ける手を止めた。