ウェディングドレスと6月の雨
 手前のテーブルから拭いていた私のところへテーブルを拭きながら高田さんが寄ってくる。そして雑巾を持っていた私の手に高田さんの手を重ねた。


「酔った成瀬さん、可愛かった。もっと見ていたかったよ」
「え?」
「また食事に誘っていい?」


 そのときだった。別の足音が聞こえる。会議室の外から……廊下だ。高田さんは慌てて手を引っ込めた。振り返る。


「穂積……?」


 いたのは穂積さん。眉を寄せてにこちらを睨んでいる。


「なんだよ珍しい。遅刻どころか随分早いな」
「……ああ。アンタ」


 穂積さんは私を見た。そして向かいの給湯室の方を顎でしゃくる。その威張った態度に高田さんは食ってかかる。


「アンタ、おい穂積、成瀬さんにアンタって言い方あるかよ」
「アンタ、湯、沸いてる」
「おい、穂積? 話聞いてんのかよ」
「……」


 私は雑巾を持ち、会議室を出ようと穂積さんの脇をすり抜けた。


「……」
「……」


 僅かに鼻を突く汗の匂い。きっと走ってきたんだろう。

< 133 / 246 >

この作品をシェア

pagetop