ウェディングドレスと6月の雨
 給湯室に入り、ガスコンロの火を止めた。それまで勢い良く噴き出していた湯気はシュルシュルと弱くなる。


「成瀬さん大丈夫?」
「はい、別に」
「酷いよね穂積のヤツ。いつも成瀬さんに迷惑掛けてんのにあのふてくされた態度」


 穂積さんの悪口を聞くのも癪で、私はつっけんどんに返事をする。


「……慣れてましたから」


 ポット持ってくよ、お湯入れるね、と高田さんはやかんの持ち手を握る。私はコーヒーの用意をする。会議室に戻ると穂積さんは自分の席に座って資料に目を通していた。真剣な眼差し。横には革の手帳。


「コーヒー、どうぞ」
「……ああ」


 相変わらず真っ黒な予定欄。空いてるのは夜中と早朝と日曜日のみ。日曜日……。


「え」


 私は目を見開いた。先週の日曜日も空欄だった。私には予定が入った、とデートを流した癖に。

 何故……。時間はあるのにを私に会いたくなかったから? それとも手帳には書けないような予定? 

 例えば……神辺さん。


「何だ?」
「いえ……失礼します」


 私は一礼して穂積さんの側から離れた。


 
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