ウェディングドレスと6月の雨
9月も長雨の季節。ここ数日どんよりとした空がオフィスビルを覆う。私の気分もどんよりしたまま。穂積さんから連絡はない。来週、また会議で会うだろう。でもきっと、顔を合わせるだけで、きっと、無視するに決まっている。穂積さんに会えるからという短絡的な理由で企画室秘書を引き受けた自分を情けなく思った。
出勤すると会社のロビーで高田さんに声を掛けられた。今日の会議……気が重たい。
「成瀬さん、おはよう」
「おはようございます」
白いシャツの第一ボタンは外されて、まだ夏支度。じとじとと湿気のある今日みたいな日にはクールビズも当然だけれど、どことなく間延びしてる気がする。
「食事行こうか」
「え?」
「ワインバーに連れてくって約束したじゃないか」
「いえ、でも先日、パティスリー峻でアスティいただきましたし」
「あれはあれだよ。ワインバーのワインならそこそこの銘柄をグラスでサービスしてくれる。そのくらいの年代物のワインを飲ませる義務があるから、僕には」
「義務なんて」
「打ち上げで成瀬さんの分を取っておかなかったんだ、当然の義務」
理屈染みた説明に感じたし、今、ワインを楽しむ気分でもない。