ウェディングドレスと6月の雨
 次々に社員が出勤しては私達の横を通り過ぎてエレベーターに乗ったり、奥の階段へと歩いていく。私や高田さんを知った顔の社員は会釈したり挨拶したり、こちらの様子をうかがっている。なのに高田さんは平気で大きな声で私を誘うから、答えに困ってしまう。ここで私が断らないと踏んでるみたいだ。ここで私が断ったら、高田さんの面子が潰れてしまうのに。

 私の横を背の高いスーツ姿の男性が通り過ぎた。だって目立つ。クールビズでシャツ姿、つまりは白や明るめのカラーの支度の多い中でグレーのスーツは否が応でも目に留まる……穂積さんだ。


「……」


 私がチラリと彼を見ると、彼は気にする様子もなくエレベーターに向かう。そして到着したエレベーターに乗り込むと奥へと進む。回れ右して体はこちらを向いていたけれど、私の方は全く見てはいなかった。まるで私がここにいないみたいに。今までの穂積さんとの出来事は何だったんだろう、過去すら無にされたみたいだ。扉が閉まる。穂積さんの姿は見えなくなった。


「……でいい?」
「はい?」
「今晩早速。会議が終わったら片付けを手伝うから、そしたら一緒に行こう」
「えっ、あの!」


 高田さんは手を挙げて走り、閉じかけた扉をボタンを押してこじ開けて、エレベーターに乗り込んで行った。隣り合わせた社員と私の方を見て話している。

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