ウェディングドレスと6月の雨
 出掛けようとする私を先輩は羨むような視線で送り出した。噂のネタを本社で仕入れたかったのだろう。

 私はオフィスを出て、駅に向かった。爽やかな空、秋晴れ。私の心とは正反対だ。駅に入り、ホームに上がる。電車に乗り込む。2本乗り換えて本社……ビルに着く。本社なんて何年振りだろう。入社以来かもしれない。

 本社……穂積さんが在籍していたところ。そして穂積さんと付き合っている神辺さんもいるところ。産休で今はいないけれど。


「こんにちは。お疲れ様です。第2支社から参りました成瀬です。今日は……」


 受付で清楚な濃紺の制服を着た受付嬢に挨拶をして受付を済ませる。本社用の磁気カードを借りて中に入る。広々とした通路、高い天井。背筋が思わず伸びる。何台もあるエレベーターの前で到着を待つ。頼まれた書類は本社総務部、4階。人事部と同フロアだ。ポーンという電子音に合わせて扉が開き、降りる社員を待って中に乗り込んだ。

 4階。入口にある呼び鈴を押して鳴らした。デスクにいた数人がこちらを見る。私は支社総務部長からの預かりもので、と説明すると、奥の方で赤ちゃんの泣き声が聞こえた。思わずお奥を見やる。そこには人だかりが出来ていて。


「あの」
「ええ。人事部の方が先月出産して、赤ちゃんを連れてきてくれたの」


 と言うことは……神辺さん?


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