ウェディングドレスと6月の雨
「仕上がりは明後日だね」
「はい。お願いします」
店を出てアパートに戻る。だから……だから尚のこともらえない。そんな高級なもの、いただけない。そして何より、オーダーメイドするほどの品なら穂積さんにとって何か意味があるはずだ、って。
翌週、6月中旬。空梅雨なのかここ数日は晴天が続いている。駅から数分歩いてきただけで肌は汗ばむ。手にしていた鞄も紙袋の持ち手もじっとりとしていた。
自社ビルの自動ドアが開くと冷気が身体を包む。ロビー中央には立派な紫陽花の鉢植えが鎮座していた。青みがかった紫、鮮やかで華やか。その涼しげな色合いに汗も引いた。私は紫陽花を見て気持ちを切り替える。だって……今日は特に気の重たい日。
うちの会社はコピー機や印刷機、プリンターを製造販売する会社。2つある支社のうちの一つではあるけど、それなりに人員もいる。同じ電車で出勤してきた社員たちは左手にあるエレベーターホールに向かっている。私はその流れから外れて奥の階段に向かった。
「おはよう、成瀬さん! 階段エラい」
「階段を褒めるんですね、先輩」
総務課は3階。私はいつも階段を利用する。そういう意味じゃ無いわよ、と4つ上の女性の先輩に紙コップを差し出された。朝のコーヒータイム。いつもは温かいはずの感触も今日はヒンヤリしている。