ウェディングドレスと6月の雨
その人集りの中に見覚えのある女性はいた。社内報に掲載されていた写真よりも綺麗な人……。
私の胸は高鳴りだした。ときめきとか恋とかそういう類の高鳴りではない。妙な緊張と罪悪感が入り混じり、嫌な気持ちにさせられた。
「赤ちゃん、ご覧になります? 女の子なら気になるでしょう? せっかく来ていただいたなら、奥にコーヒーもありますから」
その社員は手のひらを肩の高さにまで上げて、私を奥へと誘導する。一歩一歩近づいていく。近づくたびに赤ちゃんの鳴き声は大きくなる。そして群がっていた社員たちの声も。可愛い、ちっちゃい、泣いてるけどおむつ?
私は目の前まで来ておきながら迷っていた。神辺さん本人に顔を合わせてもいいのかって。誘導してくれた社員が私を紹介する。第2支社の総務課の成瀬さん、赤ちゃんを見せてあげて、と言った。
「成瀬さん、どうぞ」
聞こえたのは優しい言葉、柔らかい声質で。一礼してゆっくり顔をあげると毛布の中に真っ赤な顔をした赤ちゃんがいた。ちっちゃい……。
「可愛い……」
「ふふ。でもお猿さんみたいでしょ?」
「いえ」
「抱いてみる?」
くるまれた赤ちゃんはゆっくりと私の前に差し出された。私はその毛布ごと受け取り、赤ちゃんを眺めた。真っ赤な顔の中に黒眼が覗く。毛布から出た手は指も爪も小さい。
私の胸は高鳴りだした。ときめきとか恋とかそういう類の高鳴りではない。妙な緊張と罪悪感が入り混じり、嫌な気持ちにさせられた。
「赤ちゃん、ご覧になります? 女の子なら気になるでしょう? せっかく来ていただいたなら、奥にコーヒーもありますから」
その社員は手のひらを肩の高さにまで上げて、私を奥へと誘導する。一歩一歩近づいていく。近づくたびに赤ちゃんの鳴き声は大きくなる。そして群がっていた社員たちの声も。可愛い、ちっちゃい、泣いてるけどおむつ?
私は目の前まで来ておきながら迷っていた。神辺さん本人に顔を合わせてもいいのかって。誘導してくれた社員が私を紹介する。第2支社の総務課の成瀬さん、赤ちゃんを見せてあげて、と言った。
「成瀬さん、どうぞ」
聞こえたのは優しい言葉、柔らかい声質で。一礼してゆっくり顔をあげると毛布の中に真っ赤な顔をした赤ちゃんがいた。ちっちゃい……。
「可愛い……」
「ふふ。でもお猿さんみたいでしょ?」
「いえ」
「抱いてみる?」
くるまれた赤ちゃんはゆっくりと私の前に差し出された。私はその毛布ごと受け取り、赤ちゃんを眺めた。真っ赤な顔の中に黒眼が覗く。毛布から出た手は指も爪も小さい。