ウェディングドレスと6月の雨
 どうしよう。穂積さんに神辺さんとまだ続いてるって、言い切ってしまった。私が噂を鵜呑みにしたから。その言葉で穂積さんを傷つけてしまった、きっと。

 車窓はビルの谷間、その天井には青空が覗く。


「私、本当に穂積くんと結婚したかった」
「あの」
「主人とは離婚して、穂積くんと再婚したかったの。でもね、一年前、一方的に穂積くんに別れを告げられて……ショックで。でもそれが良かったみたい。逆に主人とやり直す気になれたの」
「そうですか……」
「きっと、穂積くんもそう考えて私を突き放したのよね」


 私は心の中にモヤモヤした感触を覚えた。なんか、一方的に別れさせられたとか被害者ぶって、それでいて別れて良かったと笑って。穂積さんはあんなに苦しんでたのに、のうのうとひとりで幸せになるなんて……。きっと、あのワンピースだってまだ持ってるに違いない。


「申し訳ないと思ってる、穂積くんには。だからこそ穂積くんには幸せになってもらいたいって。月並みなことしか言えなくてごめんね」
「いえ、謝られても私は……」


 そう返事をすると神辺さんはクスクスと笑い出した。


「神辺さん?」
「隠さなくていいわ。聞いてるの、あなたのこと」
「え?」
「穂積くんから。と言ってもメールで一言だけど。ワンピース、処分していいか、気になる子が出来た、って。あなたでしょ?」

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