ウェディングドレスと6月の雨
 穂積さんのマンションの最寄り駅に着く頃にはお昼近くになっていた。改札を抜けて外に出て空を見上げる、太陽は真上に近くなっていた。眩しさに俯くと影は短い。私の足元にスニーカーが見えた。

 穂積さんだ。ジーンズ、ポロシャツ。癖のある髪。相変わらず、無愛想で。


「おい、大丈夫か」
「はい」


 顎でしゃくる穂積さんの後ろについて、車に向かう。車に乗り込んだあとも穂積さんは無言で私も無言だった。どのタイミングで告白しよう、そんなことを考えていた。今日は会議の報告に来た。なら、仕事を終えてからの方が後腐れが無いと思った。でも穂積さんとの仕事はこのあとも続く。やっぱり止めようか、今回のコンペが終わってからでもいいんじゃないか、と心の中で弱音が吹き出してくる。膝の上で鞄の持ち手をぎゅっと握りしめた。

 5分ほどでマンションに着き、車を降りた。何を喋るでもなく、ただ黙々と歩く。


「休日に悪いな」
「いえ。あの、早速……」
「ああ」
「製品部の次からでしたよね」


 フローリングの中央にあるテーブルに向かい合わせで座る。会議の議事録と資料を出して説明していく。何か淡々と喋っていた方が落ち着いた。プライベートには関係ない仕事の話。私は手元の資料を見つめていたけど、時折視界に入る穂積さんの指先や、時折耳に入る穂積さんの相槌に心は急いた。

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