ウェディングドレスと6月の雨
「大丈夫か? アンタ本当に雷苦手なんだな」


 耳のそばで聞こえる、穂積さんの声。


「……はい」
「女の子らしくて可愛い」


 窓閉めたけどまだ怖いか?、と言いながら、そっと私の肩を抱き寄せた。穂積さんの腕にふわりと包まれて、私は抱えていた手をゆっくり下ろした。俯いたまま顔を上げることも出来ず、じっとしていた。

 コーヒーメーカーのコポコポ音が途切れてシューという湯気を吐く音に変わった。


「コーヒー、落ちたみたいだな」


 抱かれていた肩、穂積さんの手が離れた。穂積さんは立ち上がる。

 その瞬間、低い雷鳴。


「きゃあっ!」


 思わず穂積さんの足にしがみついた。


「おい」
「……ごめんなさい」


 穂積さんの足から手を離し、膝の上に戻す。穂積さんは再び座り、私の肩を抱いた。

 私たちはしばらく、そのままでいた。何をする訳でもなく、何を話す訳でもなく。私は俯いて、穂積さんが私の肩を抱いて。時折聞こえる雷鳴に私が震えると穂積さんは大丈夫とだけ呟いた。

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