ウェディングドレスと6月の雨
 午後、会議の資料を刷る。綴じてまとめる。総務課と会議室を2往復してパソコンや資料を運んだ。照明とエアコンをつける。給湯室で湯を沸かす。穂積さんに会えると思うと、いつものかったるい作業も苦にならなかった。

 給湯室で雑巾を絞っていると、こんにちは、と高めのトーンで声を掛けられた。高田さんだ。


「お疲れ様、成瀬さん」
「……お疲れ様です」
「今日、張り切ってる?」
「いえ、特に」
「髪もひとつに束ねて、気合い入れてるように見える」


 高田さんは私のとなりに並び、私の背中に手を回した。髪を撫でている。


「綺麗な髪だね。何かしてるの?」
「……いえ」


 昨夜、パックを念入りにした。でもそれは高田さんのためじゃない。


「ねえ、今夜こそ飲みに行こうよ」
「……」
「ワインバー、予約したからね」
「でも」
「大丈夫。酔ったらちゃんと介抱するし、安心して」


 高田さんの手は髪から肩に移動する。嫌……気持ちが悪い。高田さん自身は悪い人じゃ無いと思うけれど、何故か私は体の芯から高田さんを嫌だと感じてしまう。

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