ウェディングドレスと6月の雨
 車を挟んで向こうに穂積さん、こちらには私。一瞬が合うと、穂積さんはすぐに逸らした。


「海岸、歩くか」
「はい」


 駐車場から砂浜に降りる。踏みつけるとサクリサクリと砂の音がする。静かな海。鴎もいない。二人きりの空間。波打ち際まで来て、穂積さんは足を止めた。そしてそのまま海を眺めている。

 わたしは一歩下がった位置で海と穂積さんを見た。何を考えてるのか、想像がつかない。穂積さんは振り返って私を見ると、隣に並ぶよう、顎をしゃくる。一歩、二歩、と穂積さんの横に移動した。サクリサクリとしていた砂も波打ち際は湿っていて音がしない。打ち寄せる波の音、そして、自分の鼓動の音。


「なあ」
「はい」
「いや……」


 穂積さんが何かを言おうとして、止める。私の心拍数は更に上がった。良い方に期待する自分、悪い方を考える自分。そのどちらでなくても、ここまで言葉を溜めている穂積さんは何かを言う筈だから。

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