ウェディングドレスと6月の雨
 そのあとは途中でブランチを取って自宅に戻って。アパートの駐車場、細い道の路肩。


「ありがとうございました」
「いや。また来週も会えるか?」


 助手席で頷く。穂積さんはにっこりと笑った。


「行きたいところがあったらメールして」
「はい」


 穂積さんは車をバックさせたときのように助手席の肩に手を置いて身を乗り出してきた。そして軽く車の前後を確認する。


「あの……?」
「喋るな」


 暗くなる視界、塞がれた唇。一度だけ触れてすぐに離れた。


「じゃあ」
「……はい」


 くすぐったくて、でも切なくて。私は名残惜しい気持ちで車を降りた。ドアを閉めると穂積さんは左手を上げて車を発進させる。私は穂積さんの車が見えなくなるまで路肩に立っていた。

 外付けの階段を上り、部屋の鍵を開ける。そしてその瞬間にへたり込んでしまった。穂積さんとキスをした、穂積さんに告白された、穂積さんとペアの服を買った、来週もまた会える……今度は恋人として。

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