ウェディングドレスと6月の雨

 カチャリ。会議室の後ろのドアが開く音がした。その音に振り返る。


 穂積さん。


 入ってきた彼は無言、謝る様子もない。末席にいた私の前に来て、立ったまま斜めに私を見下ろした。背が高く、二重瞼の彼にそうされるとまるで睨まれたように感じる。

 私は作成した会議資料を両手で彼に差し出したが、彼は片手で奪うようにそれを受け取った。


「……顧客と会ってました。そんなに遅刻が嫌なら、会議だからって顧客先から抜けてきましょうか。企画室秘書さん?」
「……」


 穂積さんはそう吐き捨てて、前にある彼の席に歩いていく。ぶっきらぼうな人、愛想のない人、威圧的な人。何故、彼が支社で1、2を争う成績なのかは分からない。営業部のエース。濃い目のグレーの上着を脱ぐと椅子の背もたれに掛けて、ふてくされたようにドスンと椅子に腰掛ける。

 ストライプの入ったシャツにグリーンのタイが揺れるのを私は漠然と見ていた。


「じゃあ、この案件は穂積くん」
「はい」


 会議が再開されて私は慌てて議事録を取る。

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