ウェディングドレスと6月の雨
 さっきまで有頂天だった私は一気に奈落の底へ落とされた気分だった。気を利かせてお昼を用意したつもりが逆に穂積さんに気を遣わせていて。穴があったら入りたい。


「ごめんなさい、本当に」
「いや、謝ることないだろ」
「だって、カラシ……」


 穂積さんは手にしていた紙コップを芝生の上に置いた。


「穂積さ……?」


 穂積さんは立ち上がり、私のすぐ左隣に座り直した。そして右手を私の肩に置くと、ゆっくりと顔を近付けてきた。


「あの……」
「喋るな」


 触れる唇。


「美味しかったから」
「でも」
「気持ちが嬉しいんだ」
「だって」


 穂積さんはまた、喋るな、と呟いてキスを続ける。何度も何度も、触れては離して。優しく軽く、そっとそっと。その優しいキスに少し宥められて気が楽になる。

 それから、少しレジャーシートの上でゴロゴロして休んだ。穂積さんは横になって居眠りをしていた。疲れてるんだろう。土曜日もメンテナンスを入れてるみたいだから。




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