ウェディングドレスと6月の雨

 穂積さんは突如、ペダルを漕ぐのを止めた。そして、横にいる私に向き直り、私の顎を摘まむ。


「“喋るな”、ですか?」
「そうだ」


 軽いキスをする。


「本当のことを言っただけなのに」
「だから喋るな」


 今度は私の唇をはむようにキスをした。優しく唇を唇で挟んで。胸がきゅうっと苦しくなって、私は穂積さんの胸のあたりでシャツを掴んだ。軽く掴んだつもりが、ぎゅうっと力が入る。


「穂積さ……」


 顎を掴んでいた手は横に移動して頬を包む。そして段々に後ろにズレて、後頭部を押さえつけられた。

 重なる唇の面積は増えていく。何度も何度も音を立てて穂積さんは私の唇をはむ。

 しばらくして、手は離れた。そして穂積さんはペダルを踏む。


「そろそろ時間だろ」
「そうですね、30分ですし」
「岸に戻ろう」


 再び2人でペダルを漕ぐ。そして白鳥ボートを降りて、私たちは帰ることにした。

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