ウェディングドレスと6月の雨
 穂積さんが玄関を出て行ったあと、ぼうっとして放心状態で。デートして胸がいっぱいで、キスされて胸が苦しくて、もっと一緒にいたいのにいれなくて切なくて、しばらくの間、呆然としていた。

 今日の残骸を片付ける。バスケット、ミニトート、レジャーシート……。サンドイッチを詰めた箱やスープのカップをキッチンのシンクに置き、使った紙ナプキンや紙コップをごみ箱にまとめる。ポットに残っていた湯を流してシンクから立ち上る湯気を何となく見つめた。

 穂積さんに気を遣わせてしまった。苦手な味を食べさせてしまった。夕方から仕事だったのにデートに付き合わせてしまった。さっきまで私の心を支配していた切なさや高揚感は一気に消えた。私は何をしてるんだろう。穂積さんを喜ばせたいのに、うまく立ち回れてない。空回りしている気がする。

 穂積さんは来週も、って言ってたけど、それは私に会いたいからじゃなくて、私に気を遣ってるからかもしれない。恋人だから週末はデートする、そういう縛りを作ってるんじゃないかって。本当は忙しいからゆっくりとしたいのに、私に気を遣って……。そう思うと素っ気ないメールも今日の態度も納得がいく。

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