ウェディングドレスと6月の雨
 私はすぐに前を向いてブーツを脱いだ。そして部屋に上がる。薄暗い通路を抜けると殺風景なフローリングの部屋は相変わらずで。この
部屋にも神辺さんが来たかと思うと胸は痛くなる。


「どうかしたか?」
「いえ」
「コーヒーでいいか?」
「はい」


 中央にあるテーブル、クッションの上に正座する。そう言えば彼女としてここに入るのは初めてだ。だから……だから嫉妬するんだと思った。もう終わっている2人なのに。私は顔をブンブンと横に振った。するとクスクスと笑う穂積さんの声が聞こえた。


「やっぱり、どうかしたか?」
「何でもないです」
「何でもない風には見えないけど」


 穂積さんは笑いながらコーヒー粉をコーヒーメーカーに振り撒く。そしてビーカーみたいなグラスで水を注いだ。パチンと蓋をしめてパチンと電源を入れる。


「落ち着かないなら、先にするか?」
「えっ!」
「冗談」
「……もう」


 穂積さんはまたクスクスと笑った。

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