ウェディングドレスと6月の雨
 大きなトートを持って足早に浴室に向かう。浴室はキッチンの向こう、穂積さんはちゃんと後ろを向いたままだった。

 浴室に入ると床面も壁も濡れていて、穂積さんは先にシャワーを浴びたんだと思った。シャワーを出す。自分の身体をしめらせる。腕、肩、首……。自分の手で自分の肌を撫ていく。昨夜穂積さんに触れられた肌。デコルテ、胸、脇腹……。思い出して恥ずかしさに顔が熱くなる。身体もふわふわと浮く感じになる。そして胸がキュンとする。穂積さん……。

 シャワーを終えて服を着る。チュニックにレギンス、毛糸のカーディガン。軽めに化粧もした。でも脱衣場を出ていく勇気が無い。ただ恥ずかしくて、ただ嬉しくて、穂積さんにどんな顔を見せていいのか分からなくて。

 何度もキスされた唇にピンクのグロスを塗って気分を高めて部屋に戻る。それでもどうしていいか分からなくて穂積さんを見ずにクッションに座った。キッチンでカタカタと食器の音がする。テーブルの向こうにはベッド。昨夜穂積さんが私を抱いた場所。たぐまる掛け布団としわの寄ったシーツがあまりにもリアルで私はすぐに目を逸らした。

 コトンコトン。テーブルマグが置かれた。2つ。コーヒー。隣には穂積さん。


「大丈夫か?」
「はい」


 俯いたまま、上目遣いに穂積さんを盗み見る。穂積さんは何でもない風にコーヒーを啜る。

< 243 / 246 >

この作品をシェア

pagetop