ウェディングドレスと6月の雨

 7月。昨日、ボーナスも支給されてオフィス内の雰囲気はどことなく明るい。私はデスクに鞄を置くと大きく息を吐いた。


「成瀬さん、どうしたの。ため息ついて」
「明日だから」


 プレゼンは明日。私はプロジェクターの操作をすることになっていて、今日の午後は最終の会議も予定されている。


「ははは、らしくない。成瀬さん、いつも冷静だもの」
「いえ、そんなこと」
「プレゼンに勝利すると社長からご褒美が出るかもよ。隣のレストランで大盤振る舞い!」
「そうですか」
「会食フルコースプレミアム、トリュフとかね。何、食べたくないの?」
「そういうわけでもありませんけど……」


 外は雨。午後からは雷雨の予報。何となく気が重いのは黒い雨雲のせいかもしれない。


「じゃあボーナス! 成瀬さんはボーナスで何か買うの?」
「そうですね……」


 臨時企画室も直に解散になる。今日の最終会議、打ち合わせ、プレゼンは明日。そして反省会が終われば私も重責から解放される。ご褒美に何かと買おうと思っていたことすら、忘れていた。


「旅行でも行きたいですね」
「旅行?」
「それか髪を切るのも」
「髪……。失恋でもしたの?、成瀬さん」
「いえ。雨の時期ってさっぱりしたいですよね」
「まあ、そうね」


 臨時企画室の秘書を解任されて、穂積さんとも顔を合わせなくなれば、気持ちは軽くなるかもしれない。


 
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