ウェディングドレスと6月の雨
 告白。そんな大胆なことするつもりはなかったのに、穂積さんに指摘されて気付いた。自分で落とし穴を掘って自分で引っかかった子どもみたいだ。そんな恥ずかしさと、自分の気持ちを知られてしまった恥ずかしさで一気に赤面する。


「冗談。俺を好きな筈もないだろ?」


 穂積さんは軽くにっこりと自虐的に笑った。からかわれただけだった。ホッとする自分と寂しくなる自分。俯いて手元の紙袋を見つめる。コンクリートの床、自分の腕、紙袋。そんな視界に穂積さんの手が映り込んで来た。穂積さんは紙袋の持ち手を摘まむと、ゆっくりとそれを引き上げた。私の指から持ち手がスルリと離れていく。


「無理に忘れる必要もない、か」


 穂積さんは呟いた。


「そうだな、アンタの言う通りかもしれない。いつか自然に忘れられる時まで取っておく」


 穂積さんはそう言うと、もう一度手を差し出してきた。私は顔を上げた。


「あの……」
「ありがとう」


 そこには穂積さんの優しい笑顔。緊張していた私は少し、ほぐれた。


「商談が成立したときは握手だろ?」
「……そうですね」


 私は手を穂積さんの手に合わせた。穂積さんはふわりと握って。温かい、大きな手。

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