ウェディングドレスと6月の雨
 高田さんって、ちょっと穂積さんを妬み過ぎてる。同期だし、男性だから出世も気になるんだろうけれど。

 宴も進んでメイン料理が運ばれてくる。仔羊のロースト、ブルーチーズの釜リゾット、手打ちパスタ。歓声が上がる。穂積さんは今頃、得意先でコピー機を分解してるんだろうか。皆が帰ったオフィスで黙々と……。高田さんが私に取り分けてくれたリゾットの湯気を見ながらそんなことを考えて、申し訳無い気持ちになってきた。デザートはジェラート、ティラミス、フルーツ。〆のドリンクはエスプレッソ、紅茶。たらふく食べて飲んだ社員たちはご満悦で、穂積さんのことなんて誰も気にしてないみたいだった。

 お開きになり、店を出る。それぞれの帰路に就く。私は高田さんと駅に向かって歩く。夜、オフィス街は静か。私のヒールのコンクリートを打ち鳴らす音が響く。


「美味しかったね」
「はい」
「でもごめんね、成瀬さん」
「何がですか?」
「乾杯のワイン」
「いえ」


 駅の目の前の信号、青色の歩行者用信号が点滅を始めた。立ち止まる。


「成瀬さん」
「はい」
「お詫びに今度、ワインバーでおごるよ」
「いえ、そんな。お気になさらないでください」
「今日みたいな高価なものは無理だけど、美味しい店があるんだ」

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