ウェディングドレスと6月の雨
 思わず運転席の穂積さんを見た。


「あの……」
「その格好で電車に、乗る?」


 私は自分の姿を見た。白いブラウスは雨に濡れて、ワインカラーの下着をくっきりと映し出していた。しかもレースの模様まで……。とっさに鞄で胸を隠すと隣からクスリと笑う声が聞こえた。


「着替えた方がいい。風邪を引く前に襲われる」


 5分もすると夕立と思われた雨も小降りになり、車は見知らぬマンションの駐車場で停まった。運転席を降りた穂積さんが外から顎で降りるよう、私に促す。歩き出した彼について行く。白壁、10階建てくらい。エントランス部分は洒落た煉瓦調。そして中に入ると目の前のエレベータに乗った。狭い空間で何となく萎縮して私は息をするのを止めた。階数表示が6を示したところでエレベーターは加速度を下げ、それに合わせて私は止めていた息を吐いた。ドアが開く。

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