ウェディングドレスと6月の雨
「商談って……?」
「俺が彼女を忘れるまで心配だからそばにいるって、言わなかったか?」
「あ……」
ワンピースを返しに行ったとき、勢いでそう言ったのを思い出した。告白?って尋ねられて思い切り動揺して狼狽して、私は穂積さんの意図を理解しようとする余裕なんてなかった。
穂積さんは髪をかき上げた。
「……なんだ、契約破棄か」
まさか、そんな意味だったなんて。私はまた違う意味でドキドキした。
「いえ、とんでもない」
「じゃあ、また来週」
「え?」
「今度はアンタの行きたいところに連れてけよ。何、先約でもあるの?」
「ありませんけど……」
「本当にモテないんだな」
「ほっといてください……」
クスクス笑う穂積さん……。私は冷静なフリを装って、胸の高鳴りを押さえようとするけれど。無理だ。
「あと」
「はい」
「その服。大人っぽくていいけど目のやり場に困るから」
「……すいません」
「謝らなくていい。じゃあ」
「ありがとうございました……」
穂積さんは手を挙げてホームへの階段を登っていく。電車が入線したのか、ホームから風が流れ込む。直に降車した乗客たち
に紛れて穂積さんは見えなくなった。