ウェディングドレスと6月の雨

 マンションの薄暗い通路。とあるドアの前で止まる。穂積さんは小さなカードキーを差し込んだ。表札を見れば「穂積」。カチャリという音がしたあと穂積さんはドアを引いた。と言うことは……ここは穂積さんの自宅。

 穂積さんは玄関に入り、革靴を脱いだ。彼の向こうには薄暗いナチュラルブラウンのフローリングの通路、その先にはドア。穂積さんがそこを開けると僅かに外からの光が差し込んだ。全く知らない人間ではないけれど、独身男性の部屋。しかも私は濡れ鼠、もう一度自分の胸元を見ればさっきよりも下着のレースはくっきりと見えていて。胸元を両手で覆う。じっとりと肌に吸いつく下着、ブラウス。

 入ることに躊躇した私は玄関でそのままでいた。穂積さんは奥にあるであろう部屋から白いものを手にして戻ってきた。逆行の位置で彼の表情までは見えない。

 穂積さんは私にその白い物体を押し付けた。


「これ」
「え?」
「下で待ってる」
「あの」


 穂積さんは靴を履くと、私の横をすり抜けて玄関から通路に出た。そして来た道を戻っていく。エレベーターの到着音が聞こえて、穂積さんの姿は見えなくなった。

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