ウェディングドレスと6月の雨
 私は手元の白い物体を見る。大振りなバスタオルとビニールの袋に包まれた白い布。その袋にはクリーニングのチェーン店のロゴが印刷されていて、中身は洋服だとすぐに理解した。でも滑らかに光るサテン地はワイシャツの類でない。ファスナーと留め具がちらりと見えて、ワンピースなのだと推測した。これを着ろ、ということ? 私は体がぶるっと震えてくしゃみをした。このままだと風邪を引く、穂積さんの言葉に甘えよう……。私は靴を脱いで玄関に上がった。

 薄暗い通路を進むと、奥にはシンプルなフローリングの部屋があった。中央に黒のローテーブル、右端に黒のパイプベッド。レースカーテンの脇には幹が細い観葉植物、黒のパソコンラック。12畳ほどの広さでこれだけの家具だからガランとした印象だった。綺麗に片づいた部屋。男の人らしい、殺風景な部屋。

 私は服を一枚一枚脱いで下着姿になる。何となく怖くて後ろを振り返るけど誰もいなかった。大判のバスタオルで肌の水を吸い取り、髪を叩くようにして拭く。そしてビニール袋を破いて中からワンピースを取り出して息を飲んだ。


「えっ。綺麗……」


 その白いワンピースは胸元で切り返しのあるAライン。切り返しの部分にはサテン地のリボンがあしらわれていて、窓からの僅かな光にも反射した。デコルテの部分は上品なレースで肌が透けて見えるデザイン、切り返しから裾に掛けては白地のシルクのような布の上に柔らかいチュールが重ねられて、フワリとしていた。思わず自分の胸元に当てて、丈を確かめた。ちょうど膝丈。あたりを見回して鏡を探す。壁に貼り付けられている姿見を見つけて、私は駆け寄った。


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