バス停
結局それ以降これといってたいした会話もないまま、あっという間に駅にたどり着いてしまった。先生は私を気にかける風でもなくどんどん歩いて行ってしまう。駅の雑踏の中で先生は改札に定期をすべらせて私の先を行く。私は普段中央線を使っていないので 慌てて切符を買った。先生の姿が雑踏に揉まれて 消えていってしまう。一生懸命先生の姿を私は探した。やがて東京方面と高尾、大月方面のホームの分かれ道までたどり着くとホームへ上がる階段の手前壁際に立って待っていてくれた。そして私の姿を確認すると「それじゃ、僕は東京方面なので」そう言い残して階段を上りはじめた。

これで終わってしまうのか。せっかくの待ち伏せが、無駄になる。このまま別れるのが嫌で私は声をかけた
「あのっ先生」
だけどそれ以上の言葉など全く思い付かない。私の胸は苦しくなるばかりだった。先生は振り返って私の顔を一瞥すると、 少しだけ顔に苦悶の表情を浮かべた。普段の冷淡な顔がより一層冷たく思えた。
「もしも今日、偶然でも何でもなく、あなたが僕を待ち伏せていたとしたら、こういう事は、困ります。」一言。
私の情熱に冷や水を浴びせる様な一言だった。
私はただ固まったままで 先生の後ろ姿を見送る他はどうしょうもなかった。体の中の機能が全て停止してしまった様だ。

そうだ、先生が私なんかを相手にする訳ないか。
< 11 / 17 >

この作品をシェア

pagetop