バス停
なんとなくだけど、しばらくの間私は彼の横顔に見とれていた。彼は私の視線に気付いたのか鋭くて涼しい目を私に向けた。目つきが悪いせいか、その目に見つめられると心の中まで見透かされた様な気がして鳥肌が立つ思いがする。
でも彼は特にそういうつもりはないらしく少し笑いながら「レポートですか?」と問い掛けてきた。
「はい」私はそう答えた。
「大変ですね。二年生?」その丁寧語とため口が混じった独特の口調が、 近寄りがたい様な大人の落ち着きと、親しみ易さの両方を感じさせ、壁を作りそうで作らない彼の柔和な雰囲気に胸が不思議と高鳴った。
「はい。」私は短く答えた。
「僕明日からなんですょ」
「え?」

「あなた達の授業担当するんです、前期だけですけど。今日はまぁその下調べといいますか」そう言いながら彼はまた笑った。
冷たそうな外見とは裏腹にとてもよく笑う人だ。 そのギャップにも私は好感を持った。
私は何となく彼の笑顔を裏切ってみたくなった。 「でも私、授業出ないかも」
案の定彼の顔から笑顔が消え戸惑いの表情になった。私は続けて言った。 「このレポート最後にもう学校辞めようかと思っているんです」
雨音が窓を叩く
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