バス停
悲しみの雨
『ブロロロロロ!キキッー』
図書館での初めての出会いを思い返している私の耳に突如バスの大きなエンジン音とバス停に停車するためのブレーキが届き、ふと我に返った。このバス停でもうどのくらいの間待っただらうか?20分、はたまた 30分。もしかしたらそれ以上かもしれない。寒さでもはや手の感覚も薄れてきた。だんだんとトイレにも行きたくなってきた気がする。大きな大学通りを行き交う高校生や大学生が、バスがきても乗り込まずに必死な形相で佇む私を不思議そうな顔をして見ている。雨はシトシトとにわかに激しくなり私の頬を微かに濡らす。もう何度めかのバスが行き過ぎようとした時、遥か向こうの角から、ひょいと現れ歩いてくる黒っぽい影がみえた。心臓が止まった。先生だった。

大股に姿勢よくキビキビ歩く姿は間違いようもない。先生は私の姿に気付いたのか、じっと私の方をあの鋭い目でみつめた。
徐々に近づいてくる。一体何を話そうか。私はその場で石膏の様に固まったまま、ただ先生を見つめた。やがて先生はバス停の屋根の下に入り、大きな紺色の傘をたたんだ。スーツに少し水滴の玉がついている。簡単に払ってあげられたらいいのに、その手は届かない。
私の横に立つと、ふうっ と小さな溜息をつき先生は一言つぶやく様に言った。「どうも」
このぶっきらぼうな言い方が妙に愛しくなる。やがて先生は時刻表を指で確認し、しばらくバスが来ないとわかると静かに言った。「たまには歩きますか」そう言いながら振り返り微かに私に笑いかけた。待っててよかった。

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