私がお嬢様をやめる時
「お嬢様…」


ダイニングで食事をしていると
水嶋が珍しく話しかけて来た。
私は無言で水嶋を見上げる。


「その腕はどうなされたのですか?」

水嶋の目は私の腕を捉えている。

そう、今日恭平に握られた部分が
無意識にまくった袖から
出てしまっていた。
赤かった跡は青紫色になっていて
自分で見ても、とても痛々しかった。


私はハッとして袖を伸ばして隠す。


「今日転びそうになって
助けてもらった時
ちょっと強く握られちゃったの。」


嘘をついた。


「そうですか。大きな怪我にならなくて
なによりです。」


水嶋はそう言って
スープを運んで来た。


私の腕を引っ張っていく恭平は
少し怖かった。

私はそっと跡の残る腕を押さえた。
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