おにぎり屋本舗 うらら
強盗と三日月のほくろ
◇◇◇
北の町にも、遅い春がやって来た。
緑が芽吹き、桜がようやく開花する。
オフィスビルや商業ビルが立ち並ぶこの街の中心部に、その店はあった。
“おにぎり屋本舗 うらら”
木造二階建ての古い一軒家は、近代的なビルに囲まれみすぼらしく見える。
外観は薄汚れているが、紺地の暖簾をくぐると、
明るく味わいある、木の空間が気持ち良かった。
十畳ほどの狭い店内のカウンターは、おにぎりを食べに来た客で埋まり、
レジ前は、持ち帰りの客が並んでいた。
注文を取り会計をするのは、今年高校を卒業したばかりの女の子。
紺地のエプロンに三角巾を被り、働く彼女の名前は
“うらら”という。
「ばあちゃん、紅鮭、タラコ、昆布と筋子!」
うららが注文を伝えた相手は、祖母…ではなく母だ。
齢70になった彼女の名前は梢(コズエ)、
おにぎり名人と呼ばれる、健康で元気な女性だ。
梢は「あいよー」と返事をし、見事な手つきで次々とおにぎりを握って行く。
カウンターの客達は、皆美味しそうにおにぎりを頬張っていた。