おにぎり屋本舗 うらら
杉村は元上司として命令した。
「病院に行け。まずはその手を治してこい。
お前は室長として足りない物がある。
それは部下を頼る心だ。
全部自分でやろうとするな。
室長というものは、下を動かし、対策室で報告を受けている位が丁度いいんだ」
小泉は黙って歩き出す。
杉村に背を向けたのは、不愉快に思うからではない。
むしろ逆で、久しぶりに怒られたことが嬉しく、照れ臭かったのだ。
広い通りに出ると、交通規制の警察官や消防士でごった返していた。
燃えるビルに向け、放水が始まり、消防車が15台列をなして止まっていた。
この火災の負傷者は小泉だけだが、救急車も3台待機していた。
小泉は救急車の一台に歩み寄る。
無言でぬらぬらと血が染み出す左手を見せた。
杉村に「まずは治せ」と言われたことを実行していた。
SMRを去っても、小泉にとって杉村は尊敬する上司だった。