おにぎり屋本舗 うらら
笑顔の元気なお礼に対し、小泉は嫌な顔をした。
「怖いお巡りさんは、やめろ。礼もいらねぇ。
助けたのは俺じゃなく、杉村警部だ」
「おっちゃんが?」
うららは首を傾げた。
小泉は面倒臭そうに、自分がここにいる理由を説明した。
「杉村警部が珍しく、俺に電話して来たんだ。
本庁に戻る気になったかと思ったら、うららを助けに行け、だとよ。
これもSMRの仕事だと、言われた」
小泉の所属するSMRとは、本庁刑事課に五年前にできた『冤罪防止対策室』のことだ。
作ったのは、当時本庁にいた杉村。
この対策室は所属を越え、何でも捜査できる権限が与えられている。
無実の人間を誤って逮捕しないように、担当捜査チームとは違う方向で捜査を進める。
それが仕事だ。
うららは「ふーん」と頷いた。
SMRが何なのかは、理解していないが、
助けてくれたのは杉村だという事は分かった。
小泉の黒いスーツの内ポケットから着信音が聞こえた。
小泉は内ポケットに手を入れ、うららに背を向ける。
「仕事があるから送って行けねぇ。
ボサッと歩かず、周囲に気をつけて帰れよ」
小泉は携帯電話で誰かと話しながら、取調室を出て行った。
革靴の足音が廊下に響いている。
その足音は、早足からすぐに駆け足に変わった。
取調室の椅子から、うららはやっと立ち上がる。
忙しい中、小泉もまた自分を助けるために来てくれたのだと、理解していた。