おにぎり屋本舗 うらら
小泉はコートのポケットに手を入れ、何かを取り出した。
それは女性用ネックレス。
シルバーの細いチェーンに、薄ピンクの石でできた、桜のイミテーションが付いている。
今は冬だが、彼女には桜が似合う。
うららという名前から、春を連想させる。
小泉は桜のネックレスを、うららの首に付けて言った。
「今月、お前の誕生日だろ?これはプレゼントだ。
いつも付けてろ。風呂の時も寝てる時も絶対に外すな。
注意事項はもう一つ。
聞かれても、俺からもらったと言うな。
客からもらったとでも言っとけ。
今日、俺がお前に会いに来たことも言ってはいけない。
分かったな?」
うららは深く考えず、素直に頷いた。
今はただ、嬉しかった。
梢と亡くなった養父以外の人から、誕生日プレゼントを貰うのは初めてだった。
注意事項にうららが頷くのを見て、小泉は背を向けた。
片手を上げて別れを告げ、足早に歩き出す。
その背中はビルの向こうに消え、すぐに見えなくなった。