おにぎり屋本舗 うらら
 


結婚後も、うららはおにぎり屋を続けることになった。


住まいも、この家で。



多忙の小泉は、家に帰れない日も多い。


うららが淋しくないよう、小泉がここに引っ越すことにしたのだ。




梢が立ち上がる。


「ちょっと失礼するよ」


そう言って騒がしい店から離れ、一人2階へ上がった。



梢は仏壇のロウソクに火を付けた。

お鈴を鳴らし、手を合わせる。



エプロンで目頭を押さえながら、今は亡き夫に報告する。



「あんたみたいな刑事が、まだいたんだねぇ…

これで私が死んでも、うららは大丈夫だよ。

本当に良かったよ…」




10年間、夫と共にうららを守ってきた梢が、

今やっと、肩の荷を下ろした気分になれた。



長いため息を吐き出し、遺影を見つめる。



写真の中の夫は、微かに笑っていた。



「お疲れさん」と言われた気がした。






     【完】





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