おにぎり屋本舗 うらら
黒飴と薬
◇◇◇
昼の賑わう時間を過ぎたおにぎり屋は、静かな店内に客を一人残していた。
中年の男性客は、カウンターテーブルに向かい、
タラコと梅のおにぎりを頬張り、豚汁をズズズと啜った。
全てを胃袋に収めると、彼は壁掛け時計を見た。
「あ〜 仕事の時間だ。
戻りたくねぇな…」
そうぼやく男性客に、おにぎり屋店主の梢は、一喝入れた。
「愚痴言ってないで、一生懸命働きな。
仕事があるのは、ありがたい事だよ」
「分かってるけどさー、
母さーん、愚痴くらい言わせてくれよ」
母さんと呼びかけるが、客は梢の息子ではない。
彼を含め、おにぎり屋の常連は、ここのおにぎりと同じくらい梢を気に入っている。
何度も来店し、他愛ない話しをする内に、
「母さん」「ばあちゃん」
自然とそんな呼び名に変わるのだ。