おにぎり屋本舗 うらら
アスファルトやビルの照り返しで、この辺りは特に暑さを感じるが、
木造二階建てのこの店は、周りを高いビルに囲まれ日陰になるので、
夏はクーラーいらずの涼しさだった。
コップに麦茶を入れるうららに、梢は聞いた。
「杉村の坊やは、ちゃんと仕事していたかい?」
杉村は白髪の混じる中年だが、梢は彼を「坊や」と呼ぶ。
70歳の梢にしてみれば、40代も50代も、子供のような物だ。
うららは
「おっちゃん、新聞読んでお煎餅食べてた」
と報告してから、
「ん〜」と唸って何かを考えていた。
「うらら、どうした?」
「うーん、おっちゃんね、最近毎日変わったことがないか聞くの。
ないよって言ったら、些細なことでも何かあったら教えろって…
まるで何か起きるぞって、言われているみたい」
梢は数秒黙り込む。
それから笑顔でうららに言った。
「なんでもねぇよ。杉村の坊やは心配性なのさ。
自分に子供がいないから、うららを娘のように見ているだけさ」