おにぎり屋本舗 うらら
 


アスファルトやビルの照り返しで、この辺りは特に暑さを感じるが、

木造二階建てのこの店は、周りを高いビルに囲まれ日陰になるので、

夏はクーラーいらずの涼しさだった。



コップに麦茶を入れるうららに、梢は聞いた。



「杉村の坊やは、ちゃんと仕事していたかい?」



杉村は白髪の混じる中年だが、梢は彼を「坊や」と呼ぶ。


70歳の梢にしてみれば、40代も50代も、子供のような物だ。



うららは
「おっちゃん、新聞読んでお煎餅食べてた」
と報告してから、



「ん〜」と唸って何かを考えていた。



「うらら、どうした?」



「うーん、おっちゃんね、最近毎日変わったことがないか聞くの。

ないよって言ったら、些細なことでも何かあったら教えろって…

まるで何か起きるぞって、言われているみたい」




梢は数秒黙り込む。

それから笑顔でうららに言った。



「なんでもねぇよ。杉村の坊やは心配性なのさ。

自分に子供がいないから、うららを娘のように見ているだけさ」



< 30 / 284 >

この作品をシェア

pagetop