おにぎり屋本舗 うらら
この店の従業員は、梢とうららの二人しかいないので、配達できない時も良くある。
今は幸い店内に客がいない。
梢は配達を引き受けた。
依頼先は、何度か配達したことのある古いボーリング店。
軽食を希望するボーリング客がいた時だけ、こうしておにぎりの注文が入るのだ。
梢に仕事だと言われ、うららは真剣に見ていたテレビを消した。
梢が見事な手つきで握り上げていくおにぎり10個を、桜の風呂敷に包み、うららは配達に出て行った。
暑い日差しを避け、日陰を選んで歩く。
日傘を差した婦人、
荷物を抱えた配送業者、
急ぎ足のビジネスマン…
通りは多くの人が行き交っている。
うららが立体駐車場の前を歩いていると、
後ろから帽子を目深に被った男に抜かされた。
半袖Tシャツのうららに対し、彼は茶色のジャンパーを着込んでいる。
ジャンパーの衿を立てているので、通り過ぎざまにも顔が見えなかった。。
「暑くないのかな…」
そう思いながら、うららは早足のその男を見送った。