おにぎり屋本舗 うらら
杉村はうららを腕に抱きしめたまま、取り調べていた刑事をジロリと睨んだ。
「お前は確か…4課の小林だな。
うららは嘘はつかん。薬もやらん。
調書が書けるくらいの情報は取っただろ?連れて帰るぞ」
「す、杉村警部、待って下さい!
そんなの認められません、越権行為ですよ!
その子はあなたの何なのですか!?」
「警部と呼ぶな。今は巡査部長だ。
“桜庭(サクラバ)うらら”は、公安の桜庭警視長の娘だ。
名前くらいは聞いたことがあるだろう?
これ以上この子に関わるな。
詮索すると、お前の首が飛ぶぞ」
うららは杉村の胸にピッタリ顔を付けているので、杉村の表情は見れなかった。
杉村は今この時だけ、鬼と呼ばれた昔の顔に戻っていた。
4課の刑事は何も言えず、身動きも取れない。
ただ背中に冷汗が流れるのみ。
うららが杉村の胸から顔を上げると、杉村の顔はニコニコした人の良いおじさんに戻っていた。
杉村に守られながら、うららは道警本庁を後にした。
ここからおにぎり屋までは遠くない。
うららと杉村は並んで夜道を歩く。
空は薄雲が広がり、月の姿が霞んで見えた。
「うららちゃん、疲れただろう。
迎えに行くのが、遅れてすまんな」
「ううん、助かった。おっちゃんありがとう!
おっちゃんは、じいちゃんの知り合いだったんだね。
初めて知ったよ」
「あ、ああ…そうだな。
桜庭警視長は公安だから、挨拶程度しか話したことはないがな」