おにぎり屋本舗 うらら
 


小泉は声を荒げて説得を続けるが、

それを右に左に受け流し、杉村はおにぎりを食べ続けるだけ。



数分後、食べ終えた杉村は、突っ立ているうららに代金を払った。



「うららちゃん、ほいお代。
また明日も頼むな」



「うん… おっちゃん、虐められてるの?このお巡りさん、怖いねぇ」




うららは素直な感想を言った。

杉村は笑い、小泉はギラリと睨む。



「ひっ!」


うららは身を竦めた。

端正な顔で睨まれると迫力がある。



慌てて交番の出口に向かったら、うららの背中に杉村が声をかけた。



「うららちゃん、最近、何か変わったことはないか?」



足を止め、うららは振り返る。

うーんと数秒考え、答えた。



「あるよ!あのね、ばあちゃんが、今週から紅鮭の価格が上がって困るって言ってた」



杉村はどこかホッとした顔をした。



「そうかぁ、そりゃ一大事だ。
梢さんによろしく言ってな」



「うん、またね!」




うららは交番を出る。

スーツ姿のサラリーマンやお洒落した中年女性が、通りを歩いていた。


背中に当たる春の日差しが暖かい。

うららはビルの谷間を走り、おにぎり屋に帰って行った。




< 5 / 284 >

この作品をシェア

pagetop