おにぎり屋本舗 うらら
小泉は声を荒げて説得を続けるが、
それを右に左に受け流し、杉村はおにぎりを食べ続けるだけ。
数分後、食べ終えた杉村は、突っ立ているうららに代金を払った。
「うららちゃん、ほいお代。
また明日も頼むな」
「うん… おっちゃん、虐められてるの?このお巡りさん、怖いねぇ」
うららは素直な感想を言った。
杉村は笑い、小泉はギラリと睨む。
「ひっ!」
うららは身を竦めた。
端正な顔で睨まれると迫力がある。
慌てて交番の出口に向かったら、うららの背中に杉村が声をかけた。
「うららちゃん、最近、何か変わったことはないか?」
足を止め、うららは振り返る。
うーんと数秒考え、答えた。
「あるよ!あのね、ばあちゃんが、今週から紅鮭の価格が上がって困るって言ってた」
杉村はどこかホッとした顔をした。
「そうかぁ、そりゃ一大事だ。
梢さんによろしく言ってな」
「うん、またね!」
うららは交番を出る。
スーツ姿のサラリーマンやお洒落した中年女性が、通りを歩いていた。
背中に当たる春の日差しが暖かい。
うららはビルの谷間を走り、おにぎり屋に帰って行った。